賃貸物件のプロジェクトを行う場合、オーナー、設計事務所(工務店)、そして仲介業者の三者はチームを組むことになるのが一般的ですが、多くのプロジェクトにおいて、この三者が理想的な形でチームを組めておらず、それぞれの目的や利益が交わらないケースも多く見受けられます。
その原因と、理想的なチームの作り方について考察をしていきます。
賃貸物件のプロジェクトを行う場合、オーナー、設計事務所(工務店)、そして仲介業者の三者はチームを組むことになるのが一般的だと思います。
賃貸企画ですから当然、いい物件を作り、できるだけ早く、いい賃料での成約を目指すという点で、三者のゴールは一致していて当然、と思われることが多いんじゃないでしょうか。
三者の役割の違いについては改めてご説明する必要もないですが、実は立ち位置の違いにより、それぞれの目線は意外と違うところを向いている可能性もありますよ、という話を今回は書いていこうと思います。
まず、この三者の立ち位置を確認するために、それぞれの「ゴール」と「リスク」からご説明していきたいと思います。
まずはゴールについて。 オーナーさんは一般的に、できるだけ素敵な建物を作り、できるだけ高い賃料で、最短で完賃させ、ローン返済に備えつつ利益を最大化することをゴールとします。
中には、社会的意義や入居者の幸せについてできる限りの配慮をされる、志の高いオーナーさんもいらっしゃいます。
設計事務所のゴールは、正直どこに依頼されるかによってまちまちです。
オーナーさんの事業成功を最上位と考え、どうすればオーナーさんがより経済的利益を得られるのかにまでコミットする、オーナー目線を持つ設計事務所もある一方、自らの建築作品のポートフォリオとして、できるだけ美しく写真映えするものを建てたいという想いが最優先となる事務所も多いと思います。
仲介業者のゴールはシンプルに、仲介手数料売上やその後の管理料収入であることが多いですが、できるだけ有利な条件で完賃に至れるよう、相場より割高な賃料設定を嫌い、販促のための広告費予算をできるだけオーナーさんから確保することを狙うことが多いです。
一方で、リスクについてはどうでしょう?
事業者であるオーナーは多くの場合、銀行から融資を受けるため、入居者が決まらず入金がなくても融資返済が始まるリスクがあります。
また、決まりづらい物件が出来てしまった場合、空室期間が長引くことによる収支の悪化や、空室が出る度に心理的なストレスを抱えるなどのリスクがあります。
設計事務所(工務店)は、施工不良やオーダー通りに建てられなかった際に、工事のやり直しにより利益が削られたり、稀なことではありますが、オーナーとの認識のズレにより訴訟されるなどのリスクもあります。
仲介業者は、値付けミスやニーズの読み違いにより、販促費を使ってもなお完賃にいたらず、オーナーから責められたり信用を失うなどのリスクはあっても、金銭的なリスクを抱えることは少ないかもしれません。
このように、一見チームで取り組むプロジェクトでも、実はそのゴールやリスクは三者三様なわけですが、この立場によって見ている景色が違うという事実を共有し、互いに意識しながら進むプロジェクトというのはあまり多くなく、ふわっとしたまま進むことが多いのではないでしょうか。
オーナーさんの立場とすれば、専門知識を持つプロである設計事務所や仲介業者にフィーを支払う以上、彼らを信頼し、プロジェクトの成功を託したくなるのは当然です。
冒頭で、オーナー、設計事務所、仲介業者の三者がチームである、と述べましたが、このチームの力を最大限発揮するためには、時系列という視点を持つことがとても大切です。
プロジェクトがはじまる当初は、オーナーと設計事務所がタッグを組み、土地探しから建物のボリューム出し、周辺リサーチを経て、部屋数やおおまかな間取りを決め、概算賃料を入れたものを事業計画書として、金融機関に融資を申し込む、ということが多いかと思います。
融資が決まれば、オーナーと設計事務所でコンセプトをブラッシュアップし、間取りをより具体的に詰め、空間のデザインを完成させていきます。
プロジェクトの概要が大枠決まったタイミングで初めて仲介業者に声をかけ、より正確な賃料査定を依頼し、募集条件や募集方法についても具体的にし、竣工時期が固まってきたところで市場に出し募集をはじめる。
こんな流れが一般的ではないでしょうか。
つまり、時系列でいうとチームといえども最初からせーので走り出すわけではなく、二人三脚から三人四脚になる間に、一定の期間があることが多いと思います。
では、チームの力を最大限発揮するために、この進め方は本当に正解なのでしょうか?
ここから先を書き進めるにあたり、最初にお断りしておきたいのは、僕は建築家や工務店の仕事を心の底からリスペクトしており、建築の力で圧倒的な魅力を持つ建物が生まれることをよく理解しています。
そのうえで、不動産業界に身を置くものとしての自戒の意味も込めて、お伝えしたいことを書いていきます。
こう書いてしまうと怒られるかもしれませんが、設計事務所と仲介業者には、「顧客目線を忘れがち」という共通の特徴があると思います。ここでいう顧客目線とは、「自分が住むための物件を内見する際の、入居者側の視点」という意味です。
設計者や仲介営業マンが自分の家を探すのであれば、当然、自分が持っている家具や荷物の量が分かっているため、どこにどの家具を配置しようか、荷物はどこに収納しようか、あるいは洗濯物はどんな動線で洗濯して干すのか、ゴミ収集日までのゴミはどこに置いておこうか、など、具体的なイメージを持って内見に臨みます。
ただなぜか、建物を設計する立場や、営業マンとして入居者さんの物件選びに立ち会う立場になると、本来持っているはずの入居者視点がどこかに行ってしまい、視点の定まらないまま設計や接客を行ってしまうことが多いように思います。
結果的に、家具が配置しづらく、生活動線が微妙な物件を設計してしまったり、入居者さんがどこで決めかねているのか理解できないまま、ピントの外れた接客を行ってしまうことがあります。
つまり、間取りを決めるにおいてプロであるはずの設計事務所や仲介業者が、「自分が住む家ではない」というたった1つの要素により、本来持っているはずの力を発揮できないというケースが多々あるということです。
ではなぜ、このようなことになっているのでしょうか?
それは、設計士は、自身が設計した物件の入居者に、実際に住んでみてどうですか?とインタビューできることはあったとしても、その物件を内見した結果、そこに決めなかった内見客からの話を直接聞ける機会がないからだと考えています。
不動産仲介の現場では、1つの部屋を成約するまでに数回、多いと十数回から数十回のご案内をすることもあります。
それは言い換えると、その部屋に住みたいと思った方の何倍も、その部屋に住もうと思わなかった方が多いということになります。
もちろん、間取りやデザインのこと意外にも、予算や立地などの諸条件も判断基準となるため、すなわち設計が悪いわけでも、仲介業者のスキルが低いわけでもありません。
ここで重要な点は、設計士と違い、仲介業者は1つの部屋を成約するまでの間に訪れた多くの内見客から、「なぜ、その部屋に決めないという判断に至ったのか?」の理由について、ヒアリングできる立ち位置にいるということです。
不動産仲介の仕事をしていると、当然、成約した内見の方が喜びがあります。一方でそれは、この条件で決まるだろうというこちらの見立てがズレていなかったということになります。
それに対して成約しなかった内見は、こちらの見立て通りにいかなかったということであり、内見客にそれとなく「その部屋に決めない理由」をヒアリングしていくことで、とても参考になる意見が聞けることがあります。
つまり、内見の現場で得られる「なぜその部屋に決めないんですか?」という情報の方が、実は情報価値が高いということです。
前回の記事の通り、マイクロデベロッパーを目指し、将来自分の企画する不動産に入居してくださるであろう方々の意見を聞き、成約しやすい物件とそうでない物件の間にある微妙な違いを学ぶ目的で仲介の仕事を選んだ僕は、常に決まらなかった内見から得られる知見を蓄積することを意識してきました。
設計士は仲介業者より、魅力的な建物を設計することにおいて優れていることが多いですが、こうした内見から得られる知見を言語化できる仲介業者は、設計士より、成約しやすい物件づくりについての考察力が優れていることもあると考えています。
では、この仲介業者の強みをプロジェクトに活かすためには、どのタイミングで相談をするのがよいのでしょうか?
オーナーさんのリスクを軽減するための理想的なチームを作るためには、時系列ごとにメンバーを加えていくのではなく、企画の当初からそれぞれの強みを活かし、補い合う形で進めていくべきだと思います。
ただ現実には、僕たち仲介業者のもとにプロジェクトのお話しをいただくのは、すでに設計が終わり、募集にあたっての条件決めのタイミングであることが多いです。
そして正直なところ、これが僕たちの一番の悩みのタネになります。
すでにそこまでプロジェクトが進行してしまっていると、今さら大きく間取りを変更したり、そもそもそのターゲットでよかったのか?などの根本的な問い直しは基本的にできません。
まだプロジェクトがはじまって間もなく、部屋数や部屋ごとの面積はおろか、用途すら決まっていないタイミングであれば、そこから仲介業者しか持たない知見を加えながら進められたのに、と歯がゆい思いを何度もしてきました。
「さすがに何も決まっていないタイミングで相談するのは申し訳ないと思って。」と毎回言われますが、むしろ打つ手が限られ、八方塞がりの状況でボールを渡される方が辛いです。
他の仲介業者であれば、手間を嫌うところも多いと思うのでそれでもいいと思いますが、ホビー不動産では関わるプロジェクトには必ず成功してほしいと心の底から願っているので、ぜひ何も決まっていないタイミングから、ブレストレベルで問題ないのでお声かけいただけるととてもありがたいです。
冒頭に述べた通り、事業主であるオーナーさんには大きな融資を背負って、100年も持つ不動産を新築するというリスクが長期間に渡ってついてまわります。
自ら不動産賃貸業を営む事業主の立場でもあるホビー不動産としては、そのことの重要性をよく理解しています。
チーム作りがうまく行えない場合、設計事務所の自らの建築作品を作るというゴールと、仲介業者の自らの売上の確保というゴールと、出来上がった物件で長期のローン返済を抱えながら利益を出し続けなければならないオーナーさんのゴールがまったく交わらないことになり、実際に、そうしたケースはよく見受けられます。
プロジェクトをはじめるオーナーさん、設計事務所や工務店さん、あるいは再販物件を仕入れたばかりの不動産業者さんに向けてお伝えしたいことがあります。
僕たちには、個性的な不動産を長年に渡って扱い、感度の高いお客様からヒアリングしてきたニッチなニーズの蓄積があります。
同じ面積の物件でも、立地によって作るべき間取りや、デザインをどこまで攻めていいかの判断を変えるべきケースが多いです。
お金をかけてデザインを良くすることは簡単ですが、それが賃料や成約率、空室率に反映されるかといえば必ずしもそうではありません。無駄を削り、必要な箇所に投資を集め、最大限の効果を狙っていくことが、賃貸事業においては大切なことだと考えます。
ぜひ、遠慮せず早めにお声かけいただき、ホビー不動産を使いこなしてください。
ひとつよろしくお願いします。